黒森神楽
〜 神楽が来れば 春はもうすぐなのす 〜

春になると権現様のお供をして岩手県の沿岸を巡る「廻り神楽」。
黒森神楽は340年以上、南北150キロにおよぶ地域を巡り続けてきました。
海とともに生きる三陸の人々は、日々の生活や人生の節目の祈りを神楽に託してきました。
これほど海辺の人々の人生に寄り添ってきた神楽は他に見ることがありません。

岩手県宮古市の黒森神社を拠点とし、岩手県の沿岸を巡る黒森神楽。
現在保存されている中で最も古い獅子頭は700年前のものと言われています。

黒森神楽は、黒森神社を起点に隔年で、宮古市から久慈市の市町村を廻る北廻りと、宮古市から釜石市の町村を廻る南廻りの巡行を行ないます。

各地に「神楽宿」と呼ばれる、神楽を受け入れる場所があり、春になると権現様のお供をしながら、その宿を巡り、その場所その場所で舞います。

海の安全、大漁祈願、家の安寧、あるときは新しく建てられた家の柱固めのために、またあるときは亡くなった方の供養のために。
「神楽宿」は神楽衆にとっても、その地域の方々にとっても、大切にしたい場所。そして、小さな子どもから年配の方まで年代を越えた「娯楽の場所」であり、また町の安泰を願い奉納する場所なのです。
神楽衆は、神楽宿を尊重し、その関係を大切に築き上げてきました。
土地に根ざした芸能、そのスタンスは時代が変わっても、変わることはありません。

黒森神楽

神楽宿での巡行の帰り、「今回はいかがでしたか」と聞かれた際、神楽衆の方がこのように答えられていました。

「いつもと同じ」

時代、状況が変わる中で、「同じ」ことを続けていく強さ。
そして、継承されてきたことに対する誇り。
この言葉には、そんな想いが込められているようでした。

300年以上もの間に、三陸沿岸は多くの自然災害に見舞われました。
そのたびに、神楽は人々を力づけ、供養をしてきました。
黒森神楽の特徴のひとつは、あらゆる人の願いにこたえられることだと言う方もいます。
生老病死、人生のさまざまな局面に対して、黒森神楽としてのこたえを、未来に向けて伝え続けています。

「神楽が来れば、春はもうすぐなのす」

人々は、そういって黒森神楽が訪れるのを心待ちしているのです。

黒森神楽

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