チルボン仮面舞踊コラムシリーズ
④ エルリ・ラシナ インタビュー

― 日本軍の占領時代に、生き残った一枚の仮面について教えていただけますか?

日本軍が来た当初、ミミとミミのお父さん達家族はさまざまな町や村で踊って、おひねりで生計を立てる巡業中でした。
日本兵が巡業の最中にやって来たとき、ミミの家族は隠れなかったんです。
おじいちゃんは家族を守ろうとしていました。
それが当時の日本軍の敵とみなされ、すぐに捕まり、仮面が踏みつけられました。
おじいちゃんが、公演をやめなかったので反抗的に見えたんだと思います。
だって当時のミミの家族はそれで生計を立てていたんですもの。
芸術家として公演中止にしたくなかったんです。
芸術活動は、民衆にとって美しいものだとおじいちゃんは思っていました。でも当時はそう思われていなかったんです。
だから仮面までも踏みつぶされたのですが、ひとつだけ助かりました。おじいちゃんが服の下に隠していたのです。
その時から私たちは途方にくれました。
これからどうやって踊ればいいの?
残った仮面はたったひとつだけ。
それどころか、何百年と続いた先祖代々の遺産、継承されてきたものがこんなになってしまった。
ミミは涙をこぼして泣きながら、この仮面をきちんと大事に保管・手当てしていこうと誓いました。
芸能を保持し続けるために戦った、ある芸術家の証として。

その仮面を、今でも私たちはきちんと手当てをし保管しています。
そして、その仮面は歴史の証拠のひとつなのです。今でもその歴史を差し出せるんです。
どんな状況下に置かれても、耐えられるし、きちんと守っていけると。迷う事なく。

私たちは誰かを恨んではいけない。
私たちはこの歴史があるからこそ多くの人たちにインスピレーションを与えられる。
大切なのは我慢、献身。
この仮面が証明している事は、憎んではいけない、と言う事。
たった一つかもしれないけれど、仮面を守れたと言う事は「団結」の大事さや、家族の絆、分け合いの精神。
それらを昔の人から学ぶことはとっても大切。

― ミミとの最後を教えていただけますか?

最後の公演はジャカルタのブンタラ・ブダヤでした。
最後に踊ったのは「パンジー・ロゴ・マスク」その演目を踊れるのはミミと私だけです。
公演の2日後、金曜の夜。
ミミは私に
「お前がこの仮面舞踊をきちんと継承するんだよ。
この仮面を、きちんとお前が正しく守っていくんだよ。ほうっておいてはいけないよ。」

彼女の願いは、「海外でも活躍する舞踊家」になって欲しい。
さらに1人ではなく家族で。世界にも、新世代にも継承されていることを伝えて欲しい。

意識がもう無いミミが、意識が戻った瞬間に伝えてくれたことは、
「もう私がいなくても、死んでしまっても待つ必要はないよ。死から生き返る事はないんだからね。
でも、私たちが踊ってる限り、私の名前は生き続ける。お前が何処に行こうと、私はいつもそばにいるんだよ。」
そう言ったんです。
死ぬまで踊るんだよ、ミミはそれを証明してくれたんです。
その魂が、最も私を強くさせたんです。
私は踊り続けなければいけないし、伝統舞踊でもあるインドラマユの仮面舞踊を守り続け、国際的にも知らせていきたい。
それが、一番ミミを安心させてあげる事かなと思う。

(編集 : 佐藤典之)

たったひとつ残った仮面を手当てするエルリ

これまでのコラム

チルボン仮面舞踊コラムシリーズ③

チルボン仮面舞踊 その3 エルリ・ラシナ インタビュー
祖母であるミミの正統な継承者