チルボン仮面舞踊コラムシリーズ
③ エルリ・ラシナ インタビュー

エルリ・ラシナは5歳の時に舞台の事故で大火傷を負い、一時は絶望視されていましたが、祖母であるミミの薫陶を受け正統な継承者になりました。

ミミによれば、「正統」の資格には2つの条件があり、ひとつはパンジを踊れること。
もうひとつは「民衆の求めに応じて踊る」という本来のトペン・チルボンの務めを全うする事だと言います。
― 5歳の時の事故のことを教えていただけますか?

私が5歳の時。踊ってた公演中に技術的なミスがあって全身に火傷を負ったんです。
爆発が起こり全身に火の粉を浴びました。
見ることも、しゃべることも、歩くことも出来ず、頭のてっぺんから足の先まで包帯で巻かれました。
入院して3ヶ月たった頃、医者は「安楽死させますか?」とまで言ったそうです。
でも、ミミが私に魂を与えてくれたんです。

「お前以外に、誰が私の跡を継ぐんだい?20年間ものあいだ、仮面舞踊を踊れなかった。
だからこそ、私はお前に仮面舞踊を教えたいの。
でもお前が病気のまま、起きれず健康でなくてどうするの?お前以外に誰が跡を継ぐんだい?」

私はそこから立ち上がり、自分をたきつけたんです。学びたいって。
でも、ダンサーは可愛いくて、疵ひとつなく、容姿が美しいものだから、
私は劣等感で一杯で自信は全くありませんでした。
でも、ミミは魂をくれた。踊ることは身体や顔のみたくれじゃ無いと。
踊ることは、容姿の美しさを伝えるものじゃない。
私たちの身体そのものの美しさを他人に伝えることなのだと。
そこから私は努力したわ。
「お前は私みたいに、踊ってはいけなかった20年間の空白の時間を持ってはいけない。
お前は死ぬまで踊り続けなければいけないのよ。」
そこから私は立ち上がり、学び始めたんです。

― ここで習っている何百人の子ども達には、どう教えていますか?

まず、踊りの魂とは何か を知ることから始めてます。
踊りとは、美しい心で学ぶ魂から始まると。
家系の後継者でなくても、芸術家にならなくても一緒に学ぶんです。
そしてインドラマユ内だけでなく、国際的にも仮面舞踊の美しさを伝えて行きたいんです。
そのためにここで教えているんです。
小さい時から知ってもらい、全ての人が知っているようになるために。

(編集 : 佐藤典之)

次回は、日本軍占領時代の話や祖母ミミの最期の時の様子などのインタビューのコラムです。

これまでのコラム

チルボン仮面舞踊コラムシリーズ②

チルボン仮面舞踊 その2 エンド・スワンダ インタビュー
天才的なダンサー ミミ・ラシナについて