CONTENTオンラインコンテンツ

三陸国際芸術祭 モデルツアーレポート

  • 2022
  • モデルコース
  • 交流
  • 体験
  • 鑑賞

2日目 2022.09.10(土)

コロナ禍でやっと叶った、若き踊り手の芸能交流

蕪嶋(かぶしま)神社

 2日目の朝。まだ日が高くないうちに行くおすすめな場所が、八戸駅から電車で20分ほどの「蕪島(かぶしま)海浜公園」だ。海岸沿いを歩いていくと、砂浜には昆布をとって籠に背負う漁の方や、犬の散歩をする家族連れなどがいる。砂浜が途切れた先の半島状のところが「蕪島」。青い空と海に、緑の島と、島の頂上にある「蕪嶋神社」の赤い鳥居が鮮やかだ。この神社は、弁財天を祀り、漁業安全や商売繁盛のご利益があると古くから信仰されている。また、ウミネコの繁殖地として国の天然記念物に指定されている蕪島では、約3万羽のウミネコが4月から7月末頃まで繁殖を行う。この期間はウミネコからフンをかけられることもあるので、貸し出されているふん避けの傘を差して蕪嶋神社に参拝することができる。

 すぐ近くに「八戸市水産科学館マリエント」があり、八戸の水産について楽しく知ることができる。水槽の中には魚や亀が泳いでいて、ドクターフィッシュ体験も。さらには、世界に誇る地球深部探査船「ちきゅう」の研究データも展示されていて、大人にとっても子どもにとっても見どころがある。

種差(たねさし)海岸

 そのほか、「種差(たねさし)海岸インフォメーションセンター」を発着としたトレッキングプログラム「種差海岸をガイドさんと歩こう!」もおすすめだ。地元ガイドさんとともに海岸エリアを約2時間、自分の足で歩くことで、種差海岸の新たな魅力を発見していく。地元の方の話を聞くことで、景色も色鮮やかになっていくのは旅のなかで出会う喜びのひとつである。

 八戸から電車で約1時間、車では40分ほどで、岩手県洋野町へ入る。ここで三陸国際芸術祭2022彩のメインイベントのひとつである「洋と野に舞う三陸未来芸能彩・芸能彩生ミーティング」が開催される。

岩手県立岩泉高等学校郷土芸能同好会による「中野七頭舞」のレクチャー

 ミーティングに先立ち、交流会が行われた。郷土芸能の若い担い手が参加するため名を「洋野町未来交流ツアー」とし、岩手県内2校の高校生らが洋野町を巡る。メンバーは「岩手県立岩泉高等学校郷土芸能同好会」の19名と、「岩手県立北上翔南高等学校鬼剣舞部」の17名。いずれも2022年8月東京都で開催された「第46回全国高等学校総合文化祭東京大会郷土芸能部門」において、岩手県代表として出場し、ともに優良賞を受賞した全国トップレベルの高校生達だ。また、東北地方に古くから伝わる盆踊り“ナニャドヤラ”を踊る地元洋野町の「中野ふじの会」の人々が加わり、その3団体がまずは挨拶をかねてお互いの踊りを披露し、道具の説明や、簡単な踊りのレクチャーなどを行う。装束は着ていないが、太鼓や足踏みなどで地面が揺れ、その迫力に集まった人達が盛り上がる。また、リズムの取り方や基本姿勢など、ちょっとした違いが新鮮なようで、高校生達は「コロナ禍で、同世代の踊り手達との交流がないからすごく嬉しい」「他の郷土芸能に触れたのは初めて」と目を輝かせる。

 互いの芸能をデモンストレーションした後は、バスに乗って種市海浜公園へ。この海辺には、洋野町の復興シンボルでもあるひろの水産会館「ウニーク」が建つ。外観は白い客船をイメージしており、海に向かって乗り出していく船を思わせる。館内に入ってまず目がいくのは、ウニだ。町内で水揚げされた新鮮な水産物の直売スペースで、ウニの群れがホヤを食べていた。夏にはウニの殻を割る体験もできるそうだ。ほかにも地元食材が味わえる軽食コーナーや、展望デッキからは一面に広がる太平洋が望める。

眞下(まっか)さんから話を聞く高校生たち

 ウニークの向かいにある建物が、ウニなど北三陸の食材をPRする企業・北三陸ファクトリーだ。白い壁には紺色で、風見鶏ならぬ魚をかたどった風向計が描かれ、大きく「KITA-SANRIKU FACTORY(北三陸ファクトリー)」の文字が。一見おしゃれな雑貨店のようにも思える。そこで、同企業の取締役を務める眞下(まっか)美紀子さんが会社の取り組みなどを説明してくれた。震災後に「北三陸ファクトリー」というブランドを立ち上げ、ウニの養殖や、加工食品の開発、ぱっと目をひく広報アピールなど、地元の若者達に「うちの町は魅力的だな」と思われる取り組みを心がけている。眞下さん自身がUターンしていて、「地域には可能性がたくさんあるのに情報や魅力が発信できていない。若者に地場産業のことをもっと知ってもらい、活躍できる場になれば」と熱く語った。今回のイベントプログラムをプロデュースした三陸国際芸術祭ディレクター小岩秀太郎さん(全日本郷土芸能協会常務理事)※以下小岩さん は「地元企業の話を聞くことで、郷土芸能と職業の関係や地元の未来についてとらえ直す発想の種にしてもらえれば」という狙いがある。若い担い手達は地域に根ざした芸能に関わっているからこそ、それぞれの地元を客観的に振り返ったことだろう。

種市海浜公園

 「北三陸ファクトリー」の隣には、稚ウニを育てる施設や、自然の砂浜に覆われた海岸がある。最初は「砂だ……」と恐る恐る歩きだし、次第に全速力で波に向かって走り出した。中には裸足で「海だ!」と大はしゃぎしている生徒たちも。それもそのはず、どちらの高校も岩手県の内陸にあり、コロナ禍も重なって「海へ来たことがない」という高校生が何人もいたのだ。ひとしきり砂浜で騒いだ後は、海辺に腰かけ、洋野町の高校生が説明する『海のゴミ問題』に関するプレゼンテーションに耳を傾けた。町外から来た高校生達は「海にそんな課題があるなんて知らなかった」「同じ高校生が海のゴミの改善に取り組んでいてすごい」など、同世代の言葉を通して、洋野町の環境と自然について学んでいた。


種市海浜公園で記念撮影(岩手県立岩泉高等学校郷土芸能同好会)

洋野町未来交流ツアー 

日時:2022年9月10日(土)13:00~15:30

場所:中野漁村センター、北三陸ファクトリー(岩手県洋野町)

東日本大震災から復興し、先進的な取組みが顕著な洋野町を巡る、若者を対象とした交流型ツアー。町内の「北三陸ファクトリー」で起業・活躍する先輩から、地元で働こうと思ったきっかけや、地域への熱い思い、世界への発信など先進的な取組みを聞いた。また、「芸能」をともに受け継いでいる他の参加団体同士でレクチャーを行い、交流しながら学び、互いの芸能を理解し合う体験も。

実際に歩き、直に話を聞きながら交流することで、次世代を担う若者が、地元や地域および芸能への思いを新たにし、未来を考える機会とすることを目的に実施した。

中野漁村センターで鬼剣舞を披露(岩手県立北上翔南高等学校鬼剣舞部)

芸能の未来は、地域とともに

 16時からは、一般の方も参加できる「芸能彩生ミーティング」が洋野町文化会館セシリアホール(コミュニティーホール)にて開催された。集まったのは、洋野町の様々な郷土芸能に関わる若手、岩手県で芸能に携わる2高校の生徒達、プロのアーティスト、地域づくりコーディネーターなど、地域・伝統・芸能に関わる人々だ。さらに一般参加者も合流し、芸能の魅力や未来について話し合う。

洋野町文化会館セシリアホール(コミュニティーホール)

 冒頭は、小岩さんによる郷土芸能のレクチャーから始まる。とくに『郷土芸能継承においての課題』は全国各地で様々な団体が直面している。後継者不足、指導者の高齢化、活動機会の減少や資金不足など、切実な問題だ。「芸能彩生ミーティング」では、これらの課題について考えるべく、異なる立場の登壇者が事例や活動を発表していく。

北三陸ファクトリーの眞下さんによるレクチャー

 昼間に、海辺で高校生達に話をしてくれた、北三陸ファクトリーの眞下さんが、洋野町の地域資源の活用・活性化の事例についてレクチャーする。たとえば2021年にオープンした町の交流拠点施設「にぎわい創造交流施設 ヒロノット」。観光や人口拡大などを目的に、閉校した中学校を改修した施設で、イベントや宿泊ができる。そして、眞下さんにとっての大きな存在である地域おこし協力隊について。眞下さんはもともと洋野町の出身ではあるが、東京からUターンしてきたことで、町の内側からと外側からの視点を持ち、洋野町をはじめ北三陸の発信を行ってきた。そのなかで、洋野町の地域おこし協力隊の方と連携して地域外の人を受け入れる体制を整え、新しい価値を生む活動をしてきた。また、洋野町では2014年から多世代が参加した地域づくりをしており、眞下さんも地元の高校生とのプロジェクトを通して未来の人財の育成に力を入れている。このようにUターンして以降、地域の収入となる資源や、人口減少などの地域の課題に向き合ってきたのだ。それらはすべて、地域の郷土芸能の未来へも繋がっている。「芸能の未来を考えるためには、地域の経済や観光などの資源と可能性についても同時に模索しなければならない」という視点が刺さった。

WTC 小池将也さん

 イベントにゲスト参加する「ワールド太鼓カンファレンス(WTC)」のメンバーも、挨拶をかねて登壇した。WTCとは、海外から始まった太鼓愛好家などが集うイベントのこと。創作太鼓は約70年前に生まれた日本発祥の芸能として、世界中から人気を集めている。地域密着の郷土芸能とは違う形で、日本の伝統的な流れを汲んだ芸能に携わる2人のメンバーから、その活動の背景を聞いた。尾﨑真義さんは、大阪で高校教諭として働きながら和太鼓奏者として活動している。小池将也さんは、小学校で和太鼓に出会い、20歳から佐渡島の「太鼓芸能集団 鼓童」のメンバーとして世界中で公演をしてきた。この2人の芸能人生は、これから高校を卒業して、郷土芸能との関わり方が変わっていくだろう高校生達の目にどう映っただろうか。新たな選択肢として、郷土芸能と自分にとっての新しい未来の可能性として、ヒントになったらと願う。

WTC 尾﨑真義さん(右端)、高校生、地元の芸能継承者が話し合っている様子

 ミーティングの後半は、来場者全員で「郷土芸能ワークショップ」を行った。7名ほどの5チームに分かれ、3つのトピック(①私達の郷土芸能や地域の魅力、②それらを知ってもらうためには、③希望や未来)についてアイデアを出し合う。異なる芸能に関わる高校生から70代まで様々な世代が集まっているため、どんな意見が飛び交うのか楽しみだ。郷土芸能や地域の魅力については「地域と芸能が繋がっている」「皆で盛り上がれる」「世代を超えて共通の帰れる場所になる」「応援してくれるのが嬉しい」など、それぞれが芸能に携わる理由が垣間見えた。ではその魅力をどうやって広めるかや未来に向けたアイデアは、若者から圧倒的に「SNSやネットでの配信」という声が多い。また「外部講演や老人ホームで公演する」「地元以外のお祭りやイベントに積極的に参加する」など披露する機会の創出を望むほか、「子どもに体験してもらい、自然と続けてもらう」「子ども達に憧れられる存在になる」という意見も。実際、参加した高校生の中には自分が物心ついた頃から芸能が身近にあったり、カッコいいからやってみたいと思ったりなどしたというエピソードもいくつかあがっていた。

 アイデア出しのなかで盛り上がったのは、お互いの芸能を比べて「見せる踊りと、みんなで参加する踊りの、2種類があるんじゃないか?」という話題だ。前日の交流会での互いの芸能のデモンストレーションを振り返ると、岩泉高校と北上翔南高校の2校の踊る芸能は本来の目的から離れてパフォーマンスの要素が強い。一方で洋野町の中野ふじの会が踊るのは盆踊り。老いも若きも地域の人も通りがかりの人も、誰でも一緒に円になって踊る。団体を超えて交流を行ったことで、高校生達は自分が携わる芸能の特徴や、他の芸能との違いを感じ、「見せる芸能なら、どうすればやりたいと思ってもらえるのか」「一緒に楽しむ芸能なら、どうやって足を運んでもらえばいいのか」など、芸能の種類や地域によってアプローチを変えるという俯瞰した視点で、広く『郷土芸能』の未来について考えられるワークショップだった。ここには洋野町の創作太鼓のメンバーも参加しており「創作太鼓と郷土芸能とはまたちょっと違うけど、若い人をはじめ様々な方の体験を聞けて、いろんな思いを持っている人達がいることを知りました。私達も思いを持ってパフォーマンスをしないと。それが芸能ってかっこいいという意識になっていくんだな」と刺激を受けたようだ。また、Uターンして郷土芸能に関わる大人達の話を聞けたことで、進学や就職で若者が地元を離れ継承が途切れる問題について、当事者である高校生は人生の進路に重ね合わせ「地元に芸能があるありがたみと嬉しさを感じた。やっぱり繋げていくことが大事」と新たに見えた未来があったようだ。それぞれの芸能の視点で意見交換ができた豊かな時間だった。

ナニャドヤラ」の体験ワークショップ

 最後に、皆で踊れる芸能、中野ふじの会の盆踊り「ナニャドヤラ」の体験ワークショップを行った。シンプルなフレーズと振付で一見簡単そうだが、「自分の踊りと全然違う!」「足の動きがわからない!」と混乱しながらも楽しそうだ。踊り慣れている洋野町の人々のなかで、少しずつ振りを覚えて混ざっていく。皆、最終的には会場全体が太鼓と熱気に包まれた。その一体感こそが、芸能に参加することの喜びなのだろう。誰もに笑顔が浮かぶなかで、この日のイベントは終了した。


交流ミーティングで芸能継承者同士がディスカッション

芸能彩生(さいせい)ミーティング  

日時:2022年9月10日(土)16:00~18:00

会場:洋野町民文化会館セシリアホール コミュニティホール(岩手県洋野町)

芸能の宝庫といわれる三陸沿岸地域。数百にものぼる芸能が各地に伝わるが、その多くが継承の問題に直面している。

そこで、若手芸能者やプロのアーティストが集い、芸能の意義や未来を語り合うとともに、三陸地域に息づく創造性・可能性をシェアしながら仲間と思いを共有する交流ミーティングを洋野町で開催。先立って実施した洋野町未来交流ツアーに参加した地元起業家による「地域資源活用・活性化事例」の紹介、総勢約70名が7グループに分かれ、「郷土芸能や地域を広く知ってもらうには」「芸能や地域の未来と希望」などについて語り合った。

中野ふじの会が「ナニャドヤラ」をレクチャー


 彩り豊かな芸能と出会う旅 2泊3日 2022.9.23(金・祝)-25(日) 東京⇆一関⇆大船渡コース

3 おおつち「芸能のまち」と出会う旅  2泊3日 2022.10.14(金)-16(日) 東京⇆盛岡⇆大槌コース

オンラインコンテンツ一覧に戻る