CONTENTオンラインコンテンツ

三陸国際芸術祭 モデルツアーレポート

  • 2022
  • モデルコース
  • 交流
  • 体験
  • 鑑賞

3日目 2022.09.11(日)

多彩な芸能が、互いに刺激しあう場に

館鼻岸壁朝市

 週末にこの地域を訪れたなら、ぜひ足を延ばしたい場所がある。青森県八戸市の巨大朝市「館鼻岸壁朝市(たてはながんぺきあさいち)」だ。3~12月の日曜の日の出から9時頃まで漁港で開催される、全長約800m、300店もの店が並ぶ日本最大級ともいえる朝市。新鮮な魚介類をはじめ、雑貨や骨董品、介護用品やトラックまで様々な物が売られている。その他、音楽ライブやご当地アイドルのステージもあり大賑わい。屋台では青森の特産品であるイカ、サバ、ホタテの炉端焼きや、八戸の干物やせんべい汁をテーブル席でゆっくり食べたり、焼きそばや焼きたてパンを食べ歩きしたり、東北の乾物や果物をお土産に買ったりと、多くの方が楽しんでいた。

    

 イベント2日目にあたる「三陸未来芸能彩」は、洋野町文化会館セシリアホール(大ホール)にて、観客約400名(新型コロナウイルス感染症対策で客席を2分の1にして開催)の前で演舞を披露した。高校生2団体と洋野町の芸能3団体の計5団体、いずれも未来の担い手を中心とした若い出演者達が集まった。途中には、北上翔南高校が岩泉高校に自らの芸能をレクチャーする体験交流も設けられた。小岩さんは、オープニングスピーチにおいて「三陸国際芸術祭が2014年から始まるにあたって、三陸地域にこれほど多くの数と種類の郷土芸能があることに驚いた」と言う。とくに今回は、洋野町が新しい取り組みをするのにとても良い地域だと感じ、開催を決めたそうだ。「青い空と海、白い砂浜、かつ未来に向かっていろんな取り組みが地域で行われている事に感動しました。そこで、若い人達が稽古に携わっているので、若者中心のフェスティバルをやってみようかなと思いました」という熱い思いが実現し、未来を感じさせるラインナップとなっている。

おおの鳴雷(なるいかづち)太鼓

 演目はまず、創作太鼓のチーム「おおの鳴雷太鼓」が、迫力ある演奏で一気に観客を引き込む。この団体は2000年に創作太鼓講座を受講した青年たちにより結成され、現在は5~46歳までの計28人が活動している。鳴雷という名前は、洋野町大野(旧大野村)にある鳴雷神社にちなんだもの。この地域を代表する太鼓に成長し、村民に愛されるようにという願いが込められている。秋田県の劇団「わらび座」が作曲と演奏指導をし、強く鋭く情熱的なパフォーマンスを見せる。本番前の出演者は、コロナ禍でなかなか練習ができなかった悔しさをにじませつつも「コロナが落ち着いたら皆でここでもう1回やりたいという強い気持ちを胸に、今日は太鼓を叩きます」と久々のステージに強い思いを見せていた。その気合が太鼓を打つ手に込められ、客席を揺らしていく。

北上翔南高校鬼剣舞部「鬼剣舞」

 二番手は、北上翔南高校鬼剣舞部の「鬼剣舞」だ。全国高等学校総合文化祭で、文部科学大臣賞1回、文化庁長官賞を3回受賞する実力のある部である。黒や赤の鬼のような形相の仏の面をつけて出てきた部員達の堂々とした佇まいに、演舞が始まる前から舞台上の空気が変わる。剣を手に首を振りながら踊り始めると、鬼の恐ろしさと力強さ、大地と繋がるような大きな存在を感じさせる。足を上げて地面を踏みしめる動きが印象的だ。大地の悪霊を退散させて、天下泰平や五穀豊穣を祈る動きだそう。鬼剣舞とは、岩手県北上地方の農民に伝承する民俗芸能。約1300年前に始まったとされており、同部は、国指定重要無形民俗文化財「岩崎鬼剣舞」から指導を受けて活動している。3年生の生徒は「面をつけると、口には穴がなくて、鼻と目もちょっとしか空いていないので呼吸はしづらいし、視界は狭いんです」と言うが、そういった大変さはまったく感じさせない力強い踊りを見せていた。そのほとんどが女子生徒だ。最後に鬼の面を外すと、その下からはまだあどけなさの残る高校生の顔が覗いた。

 ここからは「次世代交流タイム」とし、4種の踊りを披露した北上翔南高校鬼剣舞部がステージ上で、もう一つの参加校である岩泉高校の生徒達はじめ出演団体の皆さんに鬼剣舞の基礎的な振りをレクチャーする。さっきまで踊りを見ていた段階ですでに難しそうだが、実際に説明を受けると「ここでは足の甲の形を大事にしています」など、そんなところまで意識されているのかと驚く。コロナ禍で他校との交流がない数年間を過ごしていた高校生達にとって、この交流はとても嬉しい機会のようだ。「他の学校の人達がどうやって踊りを下級生に伝えているのか気になる」という声もあり、真剣に耳を傾け身体を動かしている。20分という短い時間だったが、少しずつ振りを習得していく高校生達の様子を見守りながら、観客も手や足を動かしていた。

角浜(かどのはま)駒踊り

 休憩をはさみ、後半の第一番手は「角浜駒踊り」。洋野町では地元小中学校で活発に伝承されており、今回の舞台でも小学生らが踊る。駒踊りは、戦国時代の戦いの様子や、人々にとって戦いや農耕の支えだった馬の霊を慰めるために踊ったものだと伝えられている。衣装は、「駒」と呼ばれる木製の馬の首とシッポの飾りを腰にくくりつけ、まるで馬にまたがっている姿になる。舞台上を踊り動くと、まさに乗馬をしているようだ。子ども達の踊りを見ていると、騎馬をして戦いを始める光景が浮かんできて、身近なことだったのだろうと感じられた。

岩泉高校郷土芸能同好会「中野七頭舞」

 続いて岩泉高校郷土芸能同好会の「中野七頭舞」。多くのメンバーが別の部活動に所属しており、1990年の発足以降、全国大会9回、国立劇場3回、パリ公演などといくつもの実績を積み重ねてきた実力ある同好会だ。彼らが踊るのは岩手県宮古市に伝わる黒森神楽の「シットギジシ舞」を基本として創作されたと伝えられており、7つの役割にわかれた踊り手が、7種類の舞をすることから、その名も「七頭舞」とされている。道具ごとに踊りが違い、激しい踊り、軽快な踊り、ひょうきんな踊りなどと見ていて楽しい。踊り手の学生いわく「七頭舞は、止めるところは止めるし、しなやかなところはしなやかな踊り、見た人が笑顔になったり、感動してくれることがすごく嬉しいので続けたいです」と、勉強や部活と両立しながらも情熱をかける様子が感じられた。

中野ふじの会「ナニャドヤラ」

 トリは、観客席の洋野町民らにとっても慣れ親しんだ、中野ふじの会の「ナニャドヤラ」 。ナニャドヤラは、岩手、青森、秋田に広く伝わる盆踊りで、日本最古ともいわれている。集落ごとに特徴があり、そのバリエーションはなんと数百種類だそうだ。なかでも「中野ふじの会」は、洋野町中野地区でも古くから親しまれてきたナニャドヤラを次世代に繋ぐために2014年に結成し、洋野町の魅力アップにも取り組んでいる。 

フィナーレでは、これまでそれぞれの特色ある郷土芸能を披露してきた5団体全員が、ステージ上に幾重もの円を描いてナニャドヤラを踊った。中野ふじの会のメンバーは「ただただ楽しいから踊る」と言うが、あらゆる違いも個性も超えて、全員で笑顔で踊る様子は、祝祭そのものだ。その笑顔は客席にも広がり、大人も子どももナニャドヤラの節に合わせて手を動かし、会場一体が明るい雰囲気に包まれ、熱気のなかで「三陸未来芸能彩」は幕を閉じた。

三陸未来芸能彩フィナーレの様子

舞台上で鬼剣舞の踊りを
レクチャー

洋と野に舞う三陸未来芸能彩(げいのうさい)      

日時:2022年9月11日(日)13:00~15:30

会場:洋野町民文化会館セシリアホール 大ホール(岩手県洋野町)


三陸の未来を担う若い芸能者にフォーカスし、芸能発表と共に芸能体験も取り入れた、これまでになかった芸能祭を提案。会場は、洋(海)と野(高原)に囲まれた自然豊かな岩手県洋野町。町内からは、戦国時代から伝承され今なお地元小・中学校で活発に踊られている角浜駒踊り、日本最古の盆踊りといわれるナニャドヤラ、5歳から46歳までの幅広い年齢層で活動している和太鼓団体、若さ溢れる多彩な芸能3団体が出演。他に高校生芸能として三陸地域から岩泉町岩泉高校の中野七頭舞、北上市北上翔南高校の鬼剣舞、ともに2022年度全国高等学校総合文化祭郷土芸能部門で優良賞を受賞した岩手県トップレベルの芸能が集結。出演者による鬼剣舞体験や、ナニャドヤラ総踊りなども行った。

地元の若い芸能継承者が司会進行を務めた

ワールド太鼓カンファレンス(WTC)コメント 

小池 将也(こいけ まさや)さん

「日本が持ってる芸能の強みである『和』『輪』『仲間』を強く感じられるイベントでした。とくに交流の時間で、自分達の芸能をわかりやすく説明しようとしている気持ちと言葉から、好きなんだなという思いが伝わってきました。違う芸能の人が、お互いを尊重し合う姿に「皆が繋がってるんだな」と感じます。芸能団体にとって、交流の機会があまりないことは課題のひとつです。イベントだからこそ交流の時間がとれるので、もっと機会があるといいですね」

尾﨑 真義(おざき まさよし)さん

「見るのとやるのでは難しさも楽しさも、まったく違う。ネットやSNSではビシッと踊っている姿は「すごいな!カッコいいな!」と圧倒されます。その演者がすごく笑顔になって踊った瞬間に「一緒にやりたいな」と魅力を感じます。やっぱり、にっこり笑って、目と目が合って、お互いに励まし合って楽しさを共有し合うと、自分も踊りたいと思う人が増えると思う。さらに今回は、実際に体験する企画があることで、自分の芸能とは違う芸能を尊重できる良い機会でした」


開催地 洋野町コメント 

洋野町教育委員会
生涯学習課
林下義則 (はやした よしのり) 課長

「伝統芸能は今、コロナ禍や若者の現象によって、未来がちょっと小さくなってきています。この貴重な財産を守っていけるイベントに元気をもらい、団体として伸びていくことが、町全体に広まってくれればと願っています。会場である洋野町民文化会館は、22年前に若者が芸能や地域の文化を発展させながら交流していくことを掲げて建設されました。今後もその願いを込めて、芸能や新しい文化とともに人生を歩む人が増え、三陸が盛り上がれば嬉しい」と未来に願いを馳せていた。


 彩り豊かな芸能と出会う旅 2泊3日 2022.9.23(金・祝)-25(日) 東京⇆一関⇆大船渡コース

3 おおつち「芸能のまち」と出会う旅  2泊3日 2022.10.14(金)-16(日) 東京⇆盛岡⇆大槌コース

オンラインコンテンツ一覧に戻る