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三陸国際芸術祭 モデルツアーレポート
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おおつち「芸能のまち」と出会う旅 2泊3日
2022.10.14(金)-16(日)
東京⇆盛岡⇆大槌コース
近年は、養殖サーモンの町としても知られるようになった岩手県大槌(おおつち)町。そして“芸能のまち”とも呼べるほど郷土芸能の層が厚く、神楽・大神楽・鹿子踊・虎舞など約20もの団体が活動している。今年10月に、大槌の食べ物や芸能が集まったイベントが開かれると聞いて、中国人留学生の賀 毅(ガ・タケシ)さんとともに、ぜひにと足を運んだ。
モデルツアーの旅程
時 間 | スケジュール | 備 考 |
---|---|---|
12:20 | 東京駅発一盛岡駅着(11:23) | 東北新幹線 |
15:05 | 盛岡駅発ー大槌駅着 | 岩手県交通バス大槌行 |
時 間 | スケジュール | 備 考 |
---|---|---|
おおつちチャリクエ4時間 電動自転車 | ||
大槌駅‐波形の屋根付きベンチー孫八郎商店ー蓬莱島ー源水川(湧水)ーチャリカフェーエルマーノおばちゃんクラブデコ鮭体験 ※このコースは一例です | ||
● 大槌郷土芸能団体訪問 1時間(要予約) | ||
● 大槌神社仏閣巡り 2時間(要予約) |
時 間 | スケジュール | 備 考 |
---|---|---|
09:00 | おおつち産業祭まつり 場所:海づくり記念公園 | レンタカー |
15:21 | 大槌駅発ー釜石駅着 | 三陸鉄道 |
15:57 | 釜石駅発ー新花巻駅着 | JR釜石線 |
18:07 | 新花巻駅発ー東京駅着 | 東北新幹線 |
18:16 | 盛岡駅発ー東京駅着 | ※レンタカーの場合 東北新幹線 |
1日目 2022.10.14 (金)
2日目 2022.10.15(土)
自分好みにカスタマイズ!自転車の旅
大槌町は、三陸沿岸部のほぼ中央に位置し、盛岡から車で1時間40分の距離にある。「いろんなスポットを楽しみ倒すぞ!」という意気込みで、朝から挑んだのが「おおつちチャリクエ」。電動自転車を借り、撮影スポットや地元商店などに立ち寄りながらスタンプラリーのように大槌町を巡る体験プログラムだ。2022年4月に始まったばかりのプログラムだが、定期的に利用客があり人気だ(要予約なので注意!)。ただの自転車貸し出しと違って、撮影スポット(最低4ヶ所)で撮った写真を集めたらプレゼントがもらえたり、手作り体験ができたり、あるポイントに行くとお土産がもらえたり、飲食店クーポンがついていたりと、自然と町の人と交流をしながら大槌を楽しめるシステムになっている。また、自転車なので、自分のペースで町巡りができるのも良い。
専用MAPを受け取り、「初心者だけど、がっつり大槌を楽しみたい!」とめぼしいコースをチェック。9時には出発し、心地よい午前の日差しを浴びながら、海沿いを大槌漁港方面へと向かう。まず、最近整備された新港にある「波型の屋根付きベンチ」へ。周りには釣りを楽しむ人がちらほらといて、のんびりできる。ここは、後でプレゼントをもらえる撮影スポットのひとつなので、パシャリ。そこから10分ほどの、大槌の味覚がそろったお土産店「大槌孫八郎(まごはちろう)商店※3月12日に大槌孫八郎商店は閉店いたしました。」へ。さまざまな食品や雑貨が並ぶ。ここはチャリクエのチケットと引き換えになにかがもらえるスポットだそうで……なんとおすすめ商品の「なんちゃってスモークサーモン」の試食ができ、燻製風味のタレに漬け込んだぷりぷりのサーモンに舌鼓をうった。
さらに自転車で5分。大槌湾に浮かぶ「蓬莱島(ほうらいじま)」は、瀬戸内海にある瓢箪島とともに『ひょっこりひょうたん島』のモデルと言われる島のひとつ。たしかに離れて見ると、ひょうたんの形をしている。海を覗き込むと、底まで透き通る水質の良さと、ウニや鮮やかなヒトデの姿が楽しめた。ほか、絶滅危惧種であるイトヨが生息している「源水川(湧水)」へも。地元の方が「夏には梅花藻の白い花が咲くよ」と教えてくれた。7~8月が見ごろだそうだ。
ランチは町の中心街で、自転車屋さんとカフェが隣接した「チャリカフェ」へ。ここ以外にも契約店ではチャリクエの飲食店クーポンが利用できるので、たとえば500円のカレーなら0円に!?体に良いヘルシーなメニューもあり、自転車を漕いで運動をした後に、バランスの良い食事が体に染みる。また、近くの「菓子店エルマーノ」では、チャリクエのチケットと引き換えに焼きドーナツをもらうことができた。昭和24年に創業し、もとは冠婚葬祭用の和菓子・駄菓子を販売していたエルマーノでは、今はケーキなどの洋菓子も扱っている。震災では店舗や道具がすべて流されてしまったが、再開した後に発売した蓬莱島をモチーフにしたクッキーなども人気だ。パッケージに書かれた「だけど僕らはくじけない♪」という『ひょっこりひょうたん島』のフレーズが胸に刺さる。どちらの店も、店員さんの温かな笑顔に嬉しくなった。
午後は、参加型の体験スポットへ。当日のスケジュールによって参加できる体験が違う。この日に訪れたのは、「おばちゃんくらぶのデコ鮭体験」。東日本大震災で被災した大槌のおばちゃん達が手作りした、白いヌード鮭に、リボンやボタンやビーズなどで自由にデコレーションをしてオリジナルの「デコ鮭」を作るハンドメイド体験だ。芸能人の篠原ともえさん、光浦靖子さん、声優の高山みなみさんらも参加しており、個性あふれるデコ鮭が展示されている様子を見るだけでも楽しい。これらのデコ鮭は作った人が販売価格を決め、全国のいろんな場所で展示販売されているらしい。原価200円を超えた価格で売れると、その差額がおばちゃんくらぶの活動資金になる仕組みだ。となると、高く販売できそうなものを作りたくなる。しかし、くらぶのおばちゃんが優しくサポートしてくれるとはいえ、手芸に慣れていないとチャリクエの限られた時間内に納得のいくものを作るのは難しい。展示されているデコ鮭のユニークな魅力に圧倒されたこともあり、「悔しい!もっと時間があれば工夫できたのに!」という気持ちにもなる。しかし、諦めることなかれだ。白いヌード鮭シルエットを買えば全国どこからでも参加でき、国内では遠く沖縄から作ったデコ鮭を送ってくれた人もいる。このシステムには「生まれ育った川に帰ってくる鮭のように、仮設住宅に住む私たちも元の場所に帰れますように」といった願いが込められている。
と、盛りだくさんのおおつちチャリクエ。これでミッションはなんとかクリアし、プチ・プレゼントとして岩手オリジナルのマスキングテープをいただいた。プレゼントも体験も引換チケットも、その時々で内容が違うので、何度来ても大槌を楽しめるチャリ×クエストだった。
おおつちチャリクエの他に「神社・仏閣めぐり」もおすすめだ。大槌町は江戸時代、北は宮古市の一部から、南は釜石市までを管轄する「大槌通」として栄えていたといわれている。そのため有名な仏師や書家によるお宝が残されており、歴史好きにもたまらない。小鎚神社社殿をはじめ、由緒ある神社やお寺を巡るのも楽しいだろう。詳しく知りたい方向けには事前に予約すれば町内ガイドが案内してくれる(1グループ5000円、約2時間)。知れば知るほど、歴史と魅力が詰まった町なのだ。
400年の歴史に触れる、大槌の鹿子踊
大槌町のいくつかの郷土芸能団体では、交流訪問の受け入れをしている(必ず事前にお問合せのこと)。
この日、訪問したのは「臼澤鹿子踊保存会」。活動拠点となる伝承館を訪ね、臼澤鹿子踊保存会前会長の東梅英夫(とうばい・てるお)さんにお話を伺った。臼澤鹿子踊は寛永時代に大槌に伝わり、400年の積み重ねがある。東梅さんは1945生まれ。終戦後は子どもが多く、同世代には鹿子踊を担う人材がたくさんいた。子ども達は「自分も踊りたい」と技を身につけるために頑張ったそうだ。1975年頃から「皆で集まれる場所が欲しい!」と伝承館を建設する計画を立てた。自分達で図面を引き、建築していく。そのため完成までにかかった期間はなんと20年以上。1999年にやっと開館の目途がたった。
しかしその間に、踊り手の後継者は少なくなっていった。なんとかしなければと、地域の子ども達だけを育てるのではなく、希望する人は誰でも受け入れ伝統を受け継ぐことにした。伝承館建設の熱意も伝わり、信頼を得ることができ、そのうちに関係者はなんと120人もの大所帯になっていく。喜ばしいとともに、外の地区の人が多いことで体制としての脆さが不安でもあった。その懸念は的中する。2011年の東日本大震災により、多くの人達がこの場所に足を運ばなくなってしまった。皆、それぞれの場所で被災してしまったのだ。
「文化を伝えよう」と少しずつ活動を再開していく中で、震災後にボランティアとしてカリフォルニアから来ていた2名のダンサーと知り合った。鹿子踊に興味を持った2人は大槌に滞在し、踊りだけでなく衣装の作り方も学んだ。さらに三陸国際芸術祭のパフォーマーとして再来日するなど、交流を深めていく。しかしコロナ禍のある時、カリフォルニアから連絡があり「家族が亡くなったため弔いの舞を踊ってほしい」というのだ。コロナの影響で活動ができなくなっていた臼澤鹿子踊だったが、その願いは聞き入れなければと、若いメンバー達がオンラインでカリフォルニアや他のいくつかの国を繋ぎ、鹿子踊を踊ることができた。鹿子踊が海を越えて人を繋いだ時間だった。「生きていたら、予想を超えることが起こる」と、東梅さんは振り返る。
また、鹿子踊の衣装を作るのに欠かせないドロノキという植物がある。だんだん育てる地域が減ってきて、近年では他の素材で代用している鹿子踊の団体も多い。しかし東梅さんらは「郷土芸能なのだから衣装も地場産でやりたい」と知人を介しご縁が出来た長野県信濃国分寺から育て方を教えてもらい、ドロノキを植樹して生産を始めることにした。育て始めてから、東梅さんは「これは子ども達の未来にとっても大事なことだよな」と気づいたと言う。踊りの技はもちろん、関わるモノづくりを次の世代に繋げていくこと。それは「自分達の土地でできるんだ」という自信にもなっていく。今の子どもたちが胸を張れる未来を作ることが、ひいては後継の存続と、伝統の継承になると考えている。
実際に、鹿子踊の衣装を着せていただいた。大きな鹿の頭から「重いのだろう」と想像していたが、予想よりも遥かに体力が必要だった。大きな鹿子頭を頭と顎で支え、首が折れないように全身の筋肉に力が入る。これで激しく踊るというのだから、想像しただけでムチ打ちになりそうだ。踊り手達の努力を垣間見たようで、だからこそ地域の大人達を見て「自分も踊りたい」と憧れるのだと強く納得した。
3日目 2022.10.16(日)
郷土の味・文化・技術を堪能する地元まつり!
コロナ禍で様々な祭が中止となってしまった。22回まで続いてきた「おおつち産業まつり」も例外ではなく、2021年に「おおつちまるごと復活まつり」として再開し、さらに今年もコロナ対策に力を入れて「第24回おおつち産業まつり」が開催された。大槌の食と文化が集まり、「食べる!見る!楽しむ!」とお祭りらしさが詰まった1日だ。
港にある海づくり記念公園には、朝から30軒以上のブースに人が集まり、大槌鹿、サーモン、海藻、柿や野菜、東北のワインなど大槌の秋の味覚が所せましと大賑わい。近隣の銭湯の割引券や、地元の社会福祉法人など、地域に根ざした出展が立ち並ぶ。
ステージ前には人が集まる。様々な大槌の団体が出演し、踊りを披露するのだ。一発目の「安渡虎舞」は、大人の演じる虎を子ども達が退治する舞を披露。青空の下で黄色い虎が舞う様子は華やかで、その迫力に見入ってしまう。最後、子ども達が虎を組み伏せて口上を述べる場面は爽快で、来場者からも温かい拍手が送られた。安渡虎舞は1830年代に大槌に伝承され、地域の皆で子ども達の育成を行ってきた。東日本大震災で被災後も「虎舞を復活し、地域の再生を図りたい」と装束などを揃えて活動を再開している。
続く「浪板大神楽」は、太鼓や手平鉦(てびらがね)の音にあわせ獅子が舞う。赤い頭をつけた大きな獅子を、女の子が手懐けるようにリズムを取りながら率いていく。獅子舞の後には大人達の踊りがあり、和やかな祭の空気に包まれた。
「上亰鹿子踊」では、青や赤の頭に花の絵などを描いた鮮やかな鹿が、何体も頭を振り乱しながら踊る。剣を構えた少女達と対峙するシーンは、美しく力強い。ほかにも、雄鹿同士が雌鹿を奪い合ったり、戦いに勝った雄鹿と雌鹿が結ばれたりと、命や営みが感じられる踊りが多く、脈々と続く生命を感じた。
子ども達の七福神がめでたい「雁舞道七福神」は、テンポが速くて軽快さが楽しい。7人が順番に前に出てきて踊るのだが、それぞれが堂々と見せ場を演じきり、継承に力をいれていることが伝わる。
ステージでは見ごたえのある芸能団体の踊りが続き、屋台にも人が溢れて会場は大賑わいだった。「○○さん!」「久しぶり」「どこからきたの?」などの挨拶が飛び交い、全身で大槌をどっぷりと味わう一日であった。
第24回
おおつち産業まつり
日時:2022年10月16日(日) 9:00~15:00
会場:海づくり記念公園(岩手県大槌町)
毎年行われる、大槌商工会主催のイベント。コロナ禍の2021年度復活を果たし、震災後新しく整備された「海づくり記念公園」で開催。大槌町の芸能は、神楽に大神楽、鹿子踊に虎舞と非常に豊富。1つの町でもバラエティに富んだ芸能を楽しむことができる。その他、会場には移動動物園や、山の幸海の幸など30以上にものぼる出店が集まり、賑わいをみせた。その中には、「シカを町の財産に」を掲げ「大槌ジビエサイクル」に力を入れている「大槌ジビエ」、2022年度ギンザケとトラウトサーモンの海面養殖が事業化された「岩手大槌サーモン」なども。この産業まつりは、毎年9月に行われる、大槌稲荷神社と小鎚神社の合同例大祭「大槌まつり」・「大槌サーモンまつり」に次ぐ大イベント。
ツアーレポーターコメント
2017年に初めて大槌町を訪れました。何よりも心に残っているのは、旧役場が被災したままの姿でそこにあることでした。そのあとに震災の動画を見た衝撃は言葉で表すことはできません。また留学生向けの交流企画で「臼澤鹿子踊伝承館」へ訪問し、日本の伝統文化に触れられたのが良い思い出です。
今回、5年ぶりに大槌町へ来ました。再びの「臼澤鹿子踊伝承館」では鹿子踊の重い鹿頭や装束を身につけて、伝統を大切に守っていることをあらためて感じました。そして、大槌の町が綺麗になっていたことにびっくりしました。歩道が舗装され、観光客向けの店もたくさん開かれています。町の方々の元気な笑顔を見て心が温かくなりましたし、大槌町が少しずつ、でも着実に復興にむかっているようすも感じられました。ぜひ大槌町を訪れ、今の町の姿を感じていただきたいです。
1 彩り豊かな芸能と出会う旅 2泊3日 2022.9.23(金・祝)-25(日) 東京⇆一関⇆大船渡コース
2 若き芸能者と出会う旅 2泊3日 2022.9.9(金)-11(日) 東京⇆八戸⇆洋野コース
Edited by Sanriku International Arts Committee
Text by Kawano Momoko
Artwork by yamaneco graphics
令和4年度日本博主催・共催型プロジェクト 三陸国際芸術祭2022 彩
主催|三陸国際芸術推進委員会 独立行政法人日本芸術文化振興会 文化庁
共催|八戸市、階上町、洋野町、久慈市、野田村、普代村、田野畑村、岩泉町、宮古市、山田町、大槌町、釜石市、大船渡市、陸前高田市、住田町、三陸鉄道株式会社、公益社団法人全日本郷土芸能協会、特定非営利活動法人いわてアートサポートセンター、特定非営利活動法人ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク
協力|特定非営利活動法人震災リゲイン、合同会社imajimu、東北文化財映像研究所、みんなのしるし合同会社