習いに行くぜ!東北へ! ! ー永浜鹿踊りー
実施日:2016年9月5日(月)、6日(火)
場所:永浜鹿踊り保存会(大船渡市赤崎町)
主催:国際交流基金アジアセンター、NPO法人JCDN
「習いに行くぜ!」とは?
コンテンポラリーダンサーやアーティストが実際に、東北の郷土芸能をその土地で教わる。
自然の叡智から生まれた郷土の芸能を、音や身体の動きから学ぶと同時に、土地の生活を体験することを通じ、郷土芸能団体とアーティストの交流の機会をつくる。また、地元の郷土芸能にはない新しい視点や身体の使い方などを地元の方々が目の当たりにすることで、各郷土芸能団体のさらなる活性化を促す。
参加アーティスト
北村成美 (きたむらしげみ)
滋賀県草津市/コンテンポラリーダンス
感想:
簡単には言葉にできないですが、自分がダンス・芸事をやっていたからこそ習えたと思います。
私自身、人から習ったことをただ覚えて踊るのではなく、それを経て自分のものをつくって世に出すという表現を続けているからこそ、厳しく「この型」「この音」でなければならない伝統芸能の世界に入っていくことができたのだと思います。
今あえてそういう価値観を求めている気がします。
ですが、今回習った鹿踊りをどれだけ自分の芸事に応用できるかなんてことは、2日間だけではやれないし、語れないです。
ただ、「ものを習う」というプロセス自体が、ものをつくる人にとって大事だということ。
子供の頃に習うのとは違って、それを過ぎたが人がものを習いに飛び込んでいくという行為も含めて、大事だという気がしています。
なので今回参加したいと思ったし、実際参加して実感したことです。また、わたしは女性なので、女の人たちはどうやって裏からサポートしているのか見てみたかったです。奥様方や娘さんたちにはお会いできなかったので、次もし機会があれば一緒に台所仕事をしてみたいと思いますし、その中でいろんなことを知りたい。やっぱり1週間でも2週間でもその地域に住みたいと思います。
余所者がひとり来るというのは、ほんとにご迷惑かけちゃうことなんですが、それも覚悟の上でやってみたいです。
Martinus Miroto (マルティヌス・ミロト)
インドネシア/振付家・ダンサー
感想:
去年ササラ(永浜鹿踊り)をみていたので、この芸能があることは知っていましたし、非常にスピリチュアルなものだと感じていました。
今回習ってみて、太鼓、唄、踊りという3つのことを同時にやっているのですが、太鼓を叩く
ことと唄をうたうことが舞のベースになっているのではないかと感じました。
非常に音楽的な基礎が成り立った上での踊りだと思います。
金野会長らが教えてくれた際、独特のリズム、また唄の歌詞など彼らの教え方を、歌手でもある通訳の湯浅さんが、わたしが学べるメソッドに置き換えて工夫してくれました。
日本の考え方だと唄に合わせて音を叩くという舞の教え方でしたが、唄ではなく音やリズムを先行して学びたかったので、彼女を通してリズムの取り方や、手足の動きに集中して学びを深めることができました。
本来それは正当なやり方ではなかったはずですが、その学び方によって短い期間で習えたのだと思います。
次もし機会があれば、もう一度学びたいです。振り一つ一つ、歌詞、太鼓のリズムのどれもそれぞれ意味があるものだと思っているし、そこに儀式的な側面があるのかどうかも含め、長い期間を通してもっと知りたいです。
中西レモン (なかにしれもん)
神奈川県相模原市/パフォーマンス
感想:
本当に入り口として、みなさんが稽古しているところを見れただけでも、鹿踊りに対する関心が、映像や本で知るより少し広がりました。
単純に伝承者を育成するというよりは、伝統芸能にコンテンポラリーダンスの人が入っていくことで起こることが明確化してくると、あるいは何らかの事例が生まれてくると、この事業自体の面白みがでてくるのかなと思います。
もっと時間があってやれることがあるなら、僕は永浜で歌われている歌謡がどんなものかに興味があります。
鹿踊りは専門性が高い踊りだと思うんです。
踊れるのも若い人たち、と層が限定されてますね。
そうでなくて、もっと幅広い層であったり、気楽に短い振り付けをずっと繰り返しているものとか、庶民の人が自分で参加しながら本当に楽しんだもの、というのをもっと見ていきたいと思っている。
僕は基本的にそちらに主眼があるので、そういうのをもうちょっと見たいけれど、それだけを見ていても広がらないし、今回のように一つの村落だけで伝えられて外に出なかったものに接する、体験する機会があったというのは、個人的にとてもありがたかったし、これまでの鹿踊りに対する感覚とは違ってくるんだろうなと思いました。
スケジュール
1日目
2016年9月5日(月) 19:00-21:00 稽古
参加アーティスト:2名(北村成美、ミロト)
永浜鹿踊り:14名
関係者:7名
1日目は「太鼓の調べ」の練習。
永浜鹿踊りでは、門付けの際にその家にある様々なものを「褒め」ていく。
その最初となる「門褒め」の中の一節。
「太鼓の調(しらべ)を きりりと絞て 騒がば騒げ 騒げとんめされ」という唄に合わせて、脛を叩きながら太鼓のリズムを覚えていく。
2日目は「テッテコ」の練習。太鼓と踊りの基礎となるため、新人さんも最初に習うという複雑なリズムの舞。
これも「太鼓の調べ」同様に、脛を叩くところから始めた。
マルティヌス・ミロトは、仮面を用いた芸能に関心を示しており、衣装の意味や歴史について積極的に質問していた。
通訳には唄い手の湯浅文音さんがつき、苦戦していた日本語表記の太鼓の音「ザコザコ」「テグジッコ」などを、パーツごとに覚えやすい言葉に訳しながらリズムとして習得するのを手伝った。
また、初日から早くも脛での叩きを覚えた北村成美の「習いたい」という真剣な姿勢に、「間違ってもいいから、なんでもやってみなさい」と永浜の方たちは応えてくれていた。
永浜以外の地域の人や女性が、鹿踊りをすること自体初めての試みではあったが、練習を重ねてからでしか触れることのできない、太鼓をつけての稽古を受けさせてくれた。中西レモンは、習う期間が1日だけとなってしまったが、事前に渡していた資料や映像素材を読み込み、唄・太鼓ともに永浜の方たちを驚かせた。
また民謡の唄い手としての経験を活かし、鹿踊りの歌詞や唄い方を分析しながら習得していった。
「習いに行くぜ!」の隣では、この日から初めて鹿踊り保存会に入るという新人の稽古がスタート。
集会室の外では、9月9日の大船渡プラザホテルでの公演に向けた、現役組みの練習が同時に行われていた。
2日目
2016年9月6日(火) 13:00-16:00 永浜地域を知る
参加アーティスト:2名(北村成美、中西レモン)
永浜鹿踊り:3名
関係者:4名
永浜鹿踊りだけでなく、地域の歴史、風土、産業、震災後の状況などを聞かせてもらうため、金野会長にご紹介いただき、志田正二さんのもとを訪ねた。津波の被害を受けた志田さんのご自宅を修復し活用しているという、永浜地域仮集会場にてお話を伺う。
昔は漁業で栄えたが、その後企業誘致が進み、産業が移り変わる中で就職する人が増えていったという。鹿踊りは若い踊り手が担っているため、それぞれの働く環境に合わせた時間帯で稽古を組み、昔は一人だった中立ちを二人にするなど、工夫しながら継承しているそうだ。
震災前は113 軒、現在は仮設住宅も含めて90軒が永浜地域に残っている。
今年11月には集団移転する高台の土地の分譲が始まるため、新たな場所でのコミュニティづくりについても話し合いを重ねている最中だ。
そこでも、再建される公民館を活用しながら地域の文化をいかに守っていくか、アイディアを出し合いながら進めているという。
また、志田さんご自身は、若い時に東京へと集団就職したため、踊り手にはなることができなかった思いを語ってくれた。
小さな頃から憧れて育った「永浜鹿踊り」を、今は地域で支えていく一人として見守っている。
またお話を伺った後には、集会場のすぐ裏手にある津波の被害に遭わなかった厳島神社を案内していただいた。
2016年9月6日(火) 19:00-21:00 稽古
参加アーティスト:3名(北村成美、中西レモン、ミロト)
永浜鹿踊り:16名
関係者:4名
閉会式
2016年9月9日(金)
大船渡プラザホテル 永浜鹿踊りの公演